監督、「肌」についてお聞かせください。映画での肌づくりをテーマに女性監督に聞きました。

福山桜子

福山桜子さん 演出家/映画監督/脚本家/アクティング・コーチ

肌は、生き方までも語ります。

Table of contents

  • 1.アップになっても気にならない肌、が絶対条件。
  • 2.無意識に訴える肌を、きちんと、丁寧につくること。
  • 3.肌は、感情までもコントロールします。

  • 4.人の印象は見た目が大事。年齢は、肌で測られています。
  • 5.肌は、生き方を反映します。

1.アップになっても気にならない肌、が絶対条件。

映画や舞台をつくるとき、まず作品の世界観をはっきり打ち出すのが私の手法です。役者さんにはその世界の中でイキイキと輝いている人間でいて欲しい。この「生きているリアル感」を出すために、肌づくりはとても重要ですね。何しろ観客の視点は役者の顔に集中しますから。背景や衣装よりも、とにかくずっと見つめられるのが顔。特に映画は顔をアップで映す。ここで重要なのが、肌を観客に意識させないこと。いかにもファンデーションを塗りました感やリアルじゃない肌質感が見えてしまうと、そこばかり気になって観客は映画に集中できなくなります。こうなると世界観どころではありませんよね。つまり、映画や舞台では「気になる」ことが一番邪魔なのです。

2.無意識に訴える肌を、きちんと、丁寧につくること。

一方で肌は、時間の流れや、登場人物の精神状態を表現します。映画の長さは2時間程度、でもその中で5年10年という歳月が経過することもあります。ところが実際の撮影期間は数週間、数ヵ月。その中で時の経過や心の変化を表すために、肌が発信する情報が非常に大事。肌は健康状態や精神状態が一番現れる場所。「映画の肌」は、観客の無意識に訴えるものじゃないといけないので、肌づくりに限らず、衣装、美術、背景などこうした観客に意識させない部分、台詞で表現されない部分こそ、きちんと丁寧につくりあげていかなければ、作品は嘘っぽくなってしまう。私が作品をつくるときは「無意識」をとても大切にしています。

3.肌は、感情までもコントロールします。

映画、舞台、ドラマ、すべては人間のコミュニケーションの再現だと考えています。作品制作では言語で書かれた脚本に基づき、言語でない要素をリアルに具体化していきます。この非言語要素の中で、登場人物の外見的特徴というカテゴリーではヘアメイクさん、衣装さん、美術さんとともに「見た目」を構築します。また、笑いや息づかいなどの表情も非言語要素。「息があう」、「息がつまる」、日本語にはそんな表現もありますね。撮影現場ではいつも役者さんに呼吸を意識した演技を心がけてもらっています。それから、感情が表れる基準のひとつとして、人は顔の「色」も見る。もちろん内側から「湧く」ものを役者さんに演じてもらいますし、さまざまな条件下で最高のパフォーマンスを実現するために外側からの技術、つまりファンデーションも活用します。映画や舞台におけるメイクは「美」の追求だけではなく、人間の「感情」をもコントロールするものなんです。

4.人の印象は見た目が大事。年齢は、肌で測られています。

私はここ数年、大学で「非言語コミュニケーション」の授業をやっています。役者さんに限らず、人の外見的特徴、つまり見た目は、想像以上に相手にさまざまな情報を伝えています。特に、第一印象というのは非常に残りやすく、その先の人間関係に大きく影響します。この第一印象の重要な要素のひとつが、肌が持つ情報、顔つきが持つ情報なんですね。大学のワークショップでは初対面の人達にペアを組ませ相手のイメージを書き出してもらうのですが、メイクは女性のイメージを判断する大きな要素。ノーメイクの人は真面目そう、しっかりメイクしている人は華やかで社交的。そして年齢を判断する場合は、誰もが無意識のうちに肌から推測しています。

5.肌は、生き方を反映します。

肌には、その人の生き方が現れます。普段の食事や睡眠、スキンケアといったその人の日常生活を映し出すだけでなく、ストレスフルな考え方も肌状態に現れます。そして、きちんと現実を見つめたり自分で考え方を改善したりすると、肌もガラリと変わってくる。結局、肌がキレイな人って、自分の好きなことをやっている人ではないでしょうか。好きなことをやる=やりたい放題という意味ではありません。「自分がやっていることが、誰かを幸せにしている。そして、そのことを自分でちゃんと分かっている」状態のことだと私は思います。そういう人は、内側から沸いてくるものがある。自ら発光体になっているというか、そんな美しさがある。この状態を保てることが、一番いい生き方でもあると思います。

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